(こちらは2016年に書いた文章です)
開場してすぐに入場し、自分のチケットに指定された席を探す。アリーナ左サイド後方だったので、舞台は自分から見て右前方。右隣は既に着席していた。(まだ人がまばらなのに隣合って座ってると、二人組で来たように見えるやろな……)などと思う。右隣の男は半ズボンやった。寒くないんかな。男はイヤホンを取り出して音楽を聴き始める。こういうところで音楽聴き始める奴はだいたいオタクなんだよな(偏見)。何聴いてるのかな、とディスプレイをチラ見すると"I Wanna Go To Hawaii." アレキサンドロスやんけ。ガリレオやないんかい。
一時間後、開演。一曲目は"クライマー"。ほとんどの観客がまだ様子を見て固まっている中、右隣の男は激しくノッていた。四分音符のリズムで頭を振っていた。ああ、周りの観客をほぐすために過剰に踊っているタイプのファンかな?二曲目"恋の寿命"。さっきよりも頭を振っている。頭を振る曲ではないやろ。そもそもガリレオに頭振るような曲は無いと思う。なんやこいつ。三曲目はバラード"嵐のあとで"。振ってる。おかしいな、バラードやぞ。集中して演奏を見たいのに、視界の右端で常に奴の頭が動いている。ヤバい奴の隣に当たってしまった……
その後も奴の頭は動き続けた。"サークルゲーム"でも"青い栞"でも。さすがにイライラしてきた。せっかく東京まで来たのに、最後のライブやのに、なんでこんな奴に邪魔されなあかんねん……どうにか頭を振るのをやめさせたい……!
そうや!
それまで俺はゆらゆら揺れながら聴いていただけだったが、"夏空"のサビで、初めて腕を挙げた。そして、曲に合わせて腕を振りながら、徐々に肘を外側に曲げていった。
狙い通り、奴がテイクバックした後頭部は俺の肘に激突した。「いっ」と奴は声を上げた。ざまあみろ。これでわかったか。
さすがにこれで、奴も頭を振るのをやめるだろうと思った。甘かった。サビでは俺が腕を挙げ、後頭部を狙うから大人しくなったが、その分Aメロ・Bメロで全力のヘドバンをするようになったのだ。なんでやねん……
あー、もう辛抱ならん。アンコール前に言うたろう。大阪弁でフレンドリーかつ高圧的にいけば、席を交代させられるかもしれん。(ステージは右前方だったので奴を左に置くと視界に入りづらい)
そして"管制塔"で本編が終了、暗転。奴は汗だくでペットボトルの水を飲んでいる。俺は思い切って声をかけた。
「自分めっちゃノッてたやん!よぉライブとか行くん?」
急に見ず知らずの男にコテコテの大阪弁で話しかけられ、奴は面食らった顔をしている。
「……月に2,3回とかかな(小声)」
「自分、"サークルゲーム"とかでもめっちゃヘドバンしてたやん!『え、"サークルゲーム"でヘドバンする!?』思ったわ!いや全然ええねんで!ええんやけどな!でもセットリスト進むにつれて激しい曲になってきて※『音楽性の側がヘドバンに合わせてきたやん!』(※くり返し)って!あっ、それと肘当たってごめんな!」
「それは僕が頭振ってるから……」
「いや〜ほんまごめんな!すんごいノッてたもんな〜」(そろそろ席代われって言おう)
すると、奴は飾りのない笑顔を浮かべ、こう返してきた。
「いや〜……雄貴さん(Vo./Gt.)がカッコよすぎて……」
そのとき、ステージの照明が点き、歓声が湧き上がった。アンコールが始まってしまった。席を代われと言えなかった。でも、もう良かった。
「雄貴さんがカッコよすぎて……」
この一言で、俺は全てを許してしまった。ああ、こいつもガリレオが大好きなんやな。だからライブが楽しくてしょうがなくて、激しく頭を振ってたんや。それを俺は……
その後も、最後の曲が終わるまで、彼の頭は視界の右端で動き続けた。もう、気にならなかった。
家に帰ってきて、昨日のライブを脳内で再生している。右端には揺れる黒い物体……
いやでもやっぱ普通に見たかったな〜……
ブルーレイ出るから買おう。
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